あなたも物語しませんか。編集学校[破]物語編集術~技法その3「引用」
ISIS編集学校[破]の「物語編集術」は、さまざまな編集技法を駆使して3000字の短編を書く稽古です。その技法の一端を、古今の文学作品でお目にかけます。[破]を学べば、あなたもこんな物語が書けるはず。今回は“引用”をテーマに、古典から原型を得た名作に例を探してみました。
■ 「世界」を引用する
『山月記』 中島 敦
唐の時代、勅命により河南へ赴く役人が、未明、山中で虎に出遭う。喰われるかと思いきや、虎は翻した身を藪に隠し、「危ないところだった」と嘆息した。その声に行方の知れない旧友を思い当たった役人は、愕き悲しんで事情を問う。かつて詩才を謳われた旧友は、驕慢ゆえに身を変えられた経緯を、自嘲し嘆きつつ語った。明けてゆく空の下、自作の詩を託し、遺した妻子の世話を頼んで、彼は咆哮しつつ去って行く。
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中国には、人が虎に変わる話が数多く残されています。兄を高官に殺された男が、無念のあまり虎に変身し、山中で敵を討つ『聊斎志異』の一篇などは、そのよい例です。
本篇は、この人虎譚に題材を採り、有明の月に蒼く照らされる峨山に舞台を置いて、神秘的で静謐な世界を創り出しています。そこで語られるのは、「非才の顕れるを懼れて刻苦しなかった臆病な自尊心」と「才あるを恃んで禄を食もうとしなかった尊大な羞恥心」という、他に類を見ない深切な心情吐露。古譚の世界を借りた心理描写の白眉とされる、中島敦の最高傑作です。
■ 「運命」を引用する
『六の宮の姫君』 芥川 龍之介
父母を亡くした六の宮の姫君は、暮しのために、勧められるまま、とある受領の世話になる。身分は低くともやさしい気だてに馴染んだのも束の間、男は新しい任地へ旅立ってしまう。落魄していく中、ただ便りを待ち続ける日々。約束した任終(にんはて)の5年を過ぎても、帰る筈の人は姿を見せない。
9年後、伸びに伸びた任期を終えて都に戻った男は、姫を探して洛中を歩き回った。尋ねあぐねて雨宿りした朱雀門の下で、彼は、横たわる変わり果てた姿をみつける。男に抱えられ、居合わせた高僧内記の上人の念仏を聞きながら、姫は息をひきとった。
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『山月記』の主人公が自己に運命を捻じ曲げられたのなら、自我なく生涯を流されたのが六の宮の姫君です。引用されたのは『今昔物語』の中の一篇。ほぼ原型に近いストーリーながら、原話にはない内記の上人を登場させて、物語を締めくくっています。臨終の念仏を聞きつつ、「火の車がきた」と怯える姫。上人が声を励ますと、今度は「金色の蓮華が見える」と云う。事切れる間際は、「もう何も見えませぬ。薄暗い中に、ただ風が吹いておりまする」と繰り返す。「地獄も極楽も知らぬ腑甲斐ない女よ」と、流されるままだった一生を上人に蔑ませ、白々とした無常感を深めています。
どんな話を引用しようと、そこに自分だけの要素を組み込んでいかなければ、それはただの「盗用」です。書き入れる隙はどこだろう、描き込めるものは何だろう。原話を舐め回し、己が内面を噛みしだく。
このおもしろさを、ぜひご一緒に。14期[破]開講は、7月31日です。
(堀江久子/ISIS編集学校師範 ・編集工学研究所)






