ありえない風景の記憶
サザンオールスターズの名曲「真夏の果実」(桑田佳祐作詞)には、「マイナス100度の太陽みたいに」という一節がある。うっかりするとそのまま聞き流してしまいそうだが、よく考えてみれば、太陽がマイナス100度であるわけがない(一部の科学者?は、太陽は冷たいといっているが)。太陽の表面温度は、約6000度Cもあるのだ。
しかし、この歌詞のうしろには、「身体を湿らす恋をして」というフレーズが続く。 うまい! ありえない形容が、身体を湿らす、つらく切ない恋を効果的に強調しているのだ。編集的である。
編集技法のなかには、このように現実的にはありえない言葉の組み合わせをあえてつかって文章をエンファサイズする手法がある。冷たい太陽だって、四角い太陽だって、ありありなのだ。
模擬(シミュレーション)もまた、ありえない修辞を生みだす手法のひとつである。たとえば、下記サイトを見ていただこう。
http://www.cita.utoronto.ca/~dubinski/tflops/
ここには、われらが銀河とおとなりのアンドロメダ銀河とが衝突する様子がシミュレートされている。トロント大学のジョン・デュビンスキー博士が、サンディエゴ・コンピュータ・センターのIBM製プロセッサ・ブルーホライズンを使用して作成した描画だ。
宇宙では、このような銀河と銀河の衝突が、ふつうに起こっているらしい。われわれの銀河も、あと30億年もすると、アンドロメダ銀河と衝突すると考えられている。そしてふたつの銀河は、約10億年かけてひとつの銀河へと融合する。まさに宇宙の『オディッセイアー』ともいうべき、雄大な叙事詩である。
だが、私たちが、ここでシミュレートされたようなスペクタクルを目にすることは現実にはありえない。まず、30億年という、時の壁がある。しかも、このシミュレーションは、二つの銀河を鳥瞰する視点で描かれている。つまり、銀河を飛びださなければ、このようなビジョンを見ることはできないのである。
私たちの銀河も、はるかな過去に、ほかの銀河どうしが衝突して誕生したのだろうと現在では考えられている。そう、私たちにとってありえない光景は、銀河にとっては、いつか見た風景なのである。
デュビンスキー博士のシミュレーションが、何か、なつかしいような想いを引き起こすのは、そのせいだろうか。






