N線上の黙示録(アポカリプス)
前回紹介した「チャンジ・ブラインドネス」のような現象が起こるのは、私たちの視角のなかで、いちばん解像度が高いのは中心部のほんのわずかな範囲しかないからである。そのため、1枚の絵を見るのにも、すばやく眼球を動かしながら(サッケード)、部分部分をスキャンしていかないと全体がとらえられない。
チャンジ・ブラインドネスと同じような現象に、一点を凝視しようとすると、まわりの静止した点が見えなくなる「トロクスラー効果」(19世紀のスイスの哲学者・医学者I・P・V・トロクスラーが発見)がある。
トロクスラー効果(Michael Bach博士作成)
真ん中の緑色の点を見つめていると、まわりの黄色い点が消えてしまう。
視野周辺の解像度の低い部分は、脳によって補正され、黄色い点は背景色の色と同じに塗りつぶされているのである。
しかし、緑色の格子はずっと見えている。視野周辺でも動いているものは知覚するようだ。なぜなのか不思議だ。
次に紹介するのは、「運動残効(motion aftereffect)」。円の真ん中をじっと見つめていると、大仏がこちらにせり出してくる。片目で見たほうが効果が強いようだ。
運動残効(Michael Bach博士作成)
視覚回路には、さまざまな動きに対応した「運動検出器」がある。ずっと同じ方向への動きを見ていると、その動きに対応した検出器が順応してしまい、逆の動きに対応した検出器の出力が相対的に強くなるのである。
このように見てくると、私たちの視覚世界は、ひじょうに高度に、というか適当に編集されたものだということがわかる。
下記ページには、そうした「視覚の編集技法」がたくさん紹介されているので遊んでみてください。
http://www.michaelbach.de/ot/index.html
さて、話を模擬(シミュレーション)に戻そう。
科学書の金字塔『プリンキピア』を残したアイザック・ニュートンは、錬金術にも入れ込んでいたことが知られているが、そのほかに聖書研究者としての顔ももっていた。
とくに聖書の黙示文学、つまり旧約聖書の「ダニエル書」と新約聖書「ヨハネの黙示録」の研究に力を入れた(→千夜千冊0333)。
そして、両書を解読して、ハルマゲドンが起こるのを2060年と予言している(詳しくは拙著『科学者は妄想する』日経BP社を読んでね)。
「ヨハネの黙示録(アポカリプス)」。
ニュートンにとって、それは、世界終末のシミュレーションであった。
つづく






