様々な制度や方法論が行き詰っている。やみくもに前に進んでいればそれなりにつじつまが合う時代は過ぎ去った。
時代は「編集」を求めている。
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2007年02月28日

Ⅲ かたちはこころ-本田宗一郎がくれた千字薬-第8話.「見る、視る、観る」

四輪走行テスト室で、「デザインした者をここへ呼びなさい」と言って、本田さんが怒っているとの伝令が。部屋の責任者も上司も見当たらず、思い切って自分で行ってみることにした。いきなり、「これをやったのは、君か!」と。訳が分からないまま、「ハイ」と答えてしまったが後の祭り。
「ホンダN360」の試作車が置いてある。「どうして、こんなに背が高いんだ」と厳しい目。見ると確かに、デザイン室で見るクレーモデルより、どう見ても背が高い。と言うか、ボディ(車体)が車輪から浮き上がっているように見えた。しかも、後部が上がって前につんのめっている。咄嗟に、タイヤとボディの繋ぎ方に問題があると思った。
「サスペンション(懸架装置)のせいでしょうか」と答えると、「君は、ずっと見てたんだろうに」と、ますます声が大きくなった。「いえ、はじめてです」と答えようするその前に本田さんは、「すぐ、直しなさい」と言って出て行かれた。
私は気が動転して、何をどう叱られたのかよく分からなかった。そばで見ていた担当者が言うには、本田さんが来られていきなり、「格好悪い。デザイナーを呼べ」になってしまったという。こんなことで叱られるのはいい迷惑だと思ったが、以来、試作車は真剣に見なければと心に決めた。
車のボディは、ぐにゃぐにゃで不確かなサスペンションを介してタイヤの上に乗っかっているもの。頭では分かっていたが、その時はじめて、こう言うことかと思い知らされた。デザイン室のモデルをあらためて眺めてみると、つくり勝手で水平に置かれてはいるが、その水平はどういう水平(高さの設定)なのか、答えられる人間は誰もいなかった。
そんな訳だから、設計との取り決めも約束事もきちっとしたものがなく、お互い好き勝手にやっていたというのが実情で、設計の人たちもあわてて問題の試作車を見に行ったという。そこで彼らも、「それにしても、これは格好悪いね」とびっくり。お互いに相談しながらやって行こうという話になった。
その後、「格好いい位置」にボディを納めるのに、設計の人たちはずいぶん苦労したと聞く。この経験から私は、「自分でやったものは、自分の目で確かめる」ということの大切さを学び、ことにデザイナーは、「目が命」であると思い知った。
「みる」も色々だ。目で見る、身体で視る、心で観る、身体を看る、心を診る。やはり最後は、「心眼」にまで行き着くのだろうか。

2007年02月22日

Ⅲ かたちはこころ-本田宗一郎がくれた千字薬-第7話.「知恵を出せ」

「ホンダN360」の開発が、偽装部品など小物デザインの段階に入った頃のこと。「アイデアを練るのは楽しいねえ、それをモノにするのはもっと楽しいよ。こんな楽しいこと、君たちどうしてやらないんだい」と本田さんが。そして毎日のように、「知恵を出せ、知恵を出せ」と急き立てられた。
外観では、まずフロントフェンダーとトランクリッドの樹脂化がある。2輪では「ジュノー」をはじめ「スーパーカブ」、4輪では「AK360」と、他社に先駈け積極的に採用してきた。一回の射出で成形できる旨み、それに軽量化や耐衝撃性にも効果的。
が、良いことばかりでなく、ボディとの合わせやたて付け、フロントフェンダーの取り付け方やトランクリッドの強度確保、成形時のリブのひけ(成形後に製品が部分的に凹むこと)対策、塗装の仕上がりや色合わせなど、いずれも大苦戦を強いられた。
他には、まずアンテナがある。センターピラーのボックス断面の中にアンテナを入れるタイプ。が、これがすんなりと入ってくれない。結局、しなりの強い一本の細い鉄線で対応。アンテナを出して走ると風でしなり、感度が急に悪くなって悪戦苦闘。エンジンキーのフラット部に孔を開け、それでアンテナを引き出すアイデアも生れた。
「バンパー」はロール成型の一体タイプに。メッキが良く光るようにと、コの字断面の垂直面を上向きにしたため、両脇に廻った部分の端末処理には大苦戦。「フィラーリッド(給油口の蓋)」は助手席ドアの後方に配置、ドアとピラーの隙間に開閉レバーを付け、ドアを開けないと操作出来ないようにし、フィラーリッド専用の鍵を廃止する。
さらに、「フューエルキャップ(給油口の栓)」は、廉価な樹脂のブロー成形品に。「フロントグリル」には、ホンダマークやウインカーランプを取り付けた上、それらの座面も一体化。「ドアハンドル」は、「スーパーカブ」のブレーキレバーからヒントを得てアルミ成型品に、などなど。
こんな小さな車にどうしてこんなにと思うくらい、これまで見たこともない独自のアイデアが盛り込まれ、さながら知恵比べの天覧試合を思わせた。がどれをとっても、ものにするのに一苦労。
この一機種の開発の中で、いろんな材料による様々なつくり方を一気に体験できた。難しいことに挑戦するのは苦労も多かったが、楽しさの方が遥かに大きかった。「難しいことほど楽しい」ということを、身体で覚えた時期でもある。

2007年02月15日

Ⅲ かたちはこころ-本田宗一郎がくれた千字薬-第6話.「目標は高く」

1960年代半ば、「月に1万台売れる軽乗用車をつくれ」という本田社長の号令がかかる。この頃日本で販売されている軽乗用車は、先発4社を全部合わせても月1万台に届かない。それをいきなり全部食ってしまうような企画とはどんなものだろうと、入社2年目でデザイン担当に選ばれた私の胸は高鳴った。
新しく参入する場合、普通のマーケティング手法では、競争力の彼我比較をし、どの程度のシェアが取れるかを検証した上で台数を決めるもの。が、はなっからそんな様子はなかった。
この頃の競合車は、どれをとってもエンジンは20馬力そこそこ。大人4人が乗ると後席は相当窮屈で、トランクはほとんど無いに等しく、デザインも少々玩具っぽいものばかり。それらは40万円くらいで売られていた。
それに対して「ホンダN360」と名付けられたこの車は、馬力では5割増し以上の31馬力。大人4人がちゃんと乗れ、トランクも結構使え、その上デザインは車らしさとスポーティーさを兼ね備えていて、しかもそれが、31万5千円で売り出されたから売れないわけがない。
そんなある日、本田さんから「店を見に行ってこい」と。案の定お店の前は、札束を持って並ぶお客さんで長蛇の列。店は自転車屋に毛が生えた間口の狭いもので、車は一台も置いていない。
そこへ何台かのN360を積んだトラックがやってきた。一台ずつおろすたび手続きもそこそこに、嬉しそうな顔をしたお客さんが、ろくにセールスマンの説明も聞かずに乗って帰る姿を目の当たりにしたのである。
本田さんはそれを見てこいと言われたのだ。「お客さんの喜びを自分の喜びとする」というモノづくり哲学は、こんな形で仕事の現場で刷り込まれた。この車はその後、目標の1万台はおろかシリーズで2万5000台を達成する。
その頃、毎日のように言われた「目標は高く、評価は厳しく」は、今も、何か物事をしようとする度に蘇ってくる。N360は、まさしく「プロダクト・アウト(それまでに市場に無かったような新しい、革新的な製品を供給側が提供していくこと)」の鏡と言える。
がしかし、思うに本田さんは、「マーケット・イン(市場が求めるものを適切に提供していくこと)」の達人でもあった。今はやりのデータベースの市場把握ではなく、磨かれた鋭い5感で、「現場」「現実」を身体で知り尽くした上での「プロダクト・アウト」、「現物(モノ)」つくりであったに相違ない。

2007年02月07日

Ⅲ かたちはこころ-本田宗一郎がくれた千字薬-第5話.「200ccの見せ方」

「ホンダS600」の排気量をアップして800ccに。いわゆる、MMC(マイナーモデルチェンジ)の仕事が入社早々の私に巡ってきた。MMCとはいえ待望の4輪の仕事である。大いに胸が高鳴った。
今回は排気量アップだけでなく、駆動方法も変わるうえサスペンションにも変更が及ぶ。が、設計部門からは、「コストを抑えたいから、くれぐれも外板(鉄板)はいじってくれるな」ときつく釘を刺されていた。
 強力なエンジンが載るのだから、付き物(艤装部品)だけで見え方を変えるとなると、ラジエーターグリルを一新するのが効果的。が、デザイナーとしては、ボディも変えてみたいという気持が少なからずあった。設計部門からの要望もあるしと悩んでところへ本田さんが見えた。
モデルを見るなり、「何馬力になった?」と聞かれる。答えられずもぞもぞしていると、「そんなことも分からんでやっているのか!」と一喝。上司が「70馬力で、13馬力アップです」と助けてくれた。本田さんは、「ボンネットに、何か特徴が要るねぇ」と言って私を睨んだ。
設計部門からは、「外板はいじるな」と強く言われている。「あのぅ…」と言いかけたら上司に抑えられた。「やってみます」と上司。4連キャブの真上あたりに、いかにも意味ありげな出っ張りを付けることにした。私は小躍りしたが、設計の担当からは意味のない変更だと散々にやられた。
こうして出来たのが通称「Sハチ(ホンダS800)」の特徴となったボンネットの「バルジ(出っ張り)」である。これが、私にとって初めてのボディデザインとなり、上司には感謝感激。やっと、自動車デザインをしている気分になることができた。それにしても、馬力も知らないでと反省しきり。
人間にも個性や特徴が大事であるように、商品にも「他との違いや差」が必要である。それが、商品を手にする人の満足や喜びに繋がるということを、この仕事を通じて学ぶことができた。デザインには中身を表わす役目があると。
確かに、200ccは13馬力の価値をつくったが、バルジは、「ホンダS600」に対する「差」と、他社車に対する「違い」を目に見えるようにしたのである。
宣伝部門のつくったカタログ写真の主役は、新しくデザインしたフロントグリルでも前後のランプ類でもなく、ボンネットのバルジであった。モーター誌の表紙にも登場し、たちまちバルジは、「Sハチ」の「顔」になり「誇り」になった。


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