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Ⅲ かたちはこころ-本田宗一郎がくれた千字薬-第10話.「逆もまた」

軽ライトバン「ホンダLN360」の試作初号機が完成。後部扉の上下2枚開きが特徴である。試作車とはいえ、上開きのヒンジ(蝶つがい)があまりにも見苦しく突起していた。気になった。案の定、本田さんに見つかる。私を見るなり、「この格好は、何だ」と恐い目で。
私としても初めて見る形。この手の構造部位は、設計の担当でデザイン室の関わるところではない。が、この前も車高設定で痛い目に遭っている。「まずい」と思ったが手遅れだった。「すぐ、直しなさい」と手厳しい。
出っ張りを引っ込めれば位に軽く思っていたが、簡単でないことが判った。「そこを何とか」と設計担当に頼んだが、扉上部の見切り線を水平に真っ直ぐにしない限り無理、とつれない返事。そこへ本田さんが現れた。
「これ以上、何とも」と設計担当が機構上の説明を。が、逃げ口上と受け取られ、またもや一喝。そして「それなら、外付けで考えて見ろ」と。これまで出っ張りを無くそうと努力してきたのに、いきなり見えるようにしろと言われて面食らった。
早速、「ホンダS600」のトランク部についている外付けヒンジを参考にデザインを開始。強度上テールゲート側の取り付け場所が限定され、中々スマートにならない。そこで、できるだけ小さく目立たない形にと努力した。
それを本田さんが見て、「もっとでっかく、目立つように」と。自分の思いと反対のことを言われるのでますます訳が分からなくなり、やけくそでヒンジのモデル上に粘土を盛り付け、当初の5割増しくらいの大きさにした。今度こそ大丈夫と思ったが、「ちっとも変わっとらん。まだ分からんのか」と怒鳴られ、ヒンジを床に叩き付けられた。
「こんなんじゃ目立たない。肩章は大きくて光っているから御利益があるんだ」と。更に5割増しぐらいの大きさに。やっと「オッケイ」が出た。結局、最初の倍以上の大きさになってしまった。
以来そのヒンジは、仲間うちで「肩章」と呼ばれるように。大きさも形も自分の許容限度を超えていた。それが世の中に出て、誰からも厭だとか嫌いだとか言われなかったところを見ると、私の方に「小さく目立たなく」という拘りがあったのかも。
「逆もまた」というか「押して駄目なら」というか、一方向だけで凝り固まっていては新たな進展はない。また自分の考えだけに閉じこもっていては拡がりがない。不特定多数のお客さんに喜んでいただくのは、大変なことだと思い知った。

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