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Ⅲ かたちはこころ-本田宗一郎がくれた千字薬-第21話.「目標の共有」

「人間のように、気配を感じる車ができないかねぇ」と本田さん。「ホンダシビック」の成功後、次の車の検討に入っていた。人は雑踏の中で、他人とぶつからずにスイスイと歩ける。前方はもちろん、横や後ろから近づく人まで上手くかわしていく。こんなことが車同士で実現できるのか。チームの誰もが、これは極めて高いハードルだと感じた。
人間は、「五感」をフルに使って歩く。いわゆる、「視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚」によって周りの状況を感じ取る。今ならセンサーを使うことになろうが、この時代、「三等機械」を自認する自動車には望むべくもなかった。
そこで、運転する人の五感を妨げないためには、という身近なところから取りかかることに。「判断」や「指令」についても研究する必要があった。が、残念ながら、これらに関する専門家は所内で見当たらず、手分けをして専門の先生方の教えを請うことになる。
勉強の結果、一番の頼りは「目」であると。先生の話では、情報の8割は目が受け持っているらしい。しかしその目も、スピードを上げると極端に視力が落ち、視野が狭くなるそうだ。また高齢化や長時間運転も、目への影響は大きいという。いかに目を働き易くするか、目の負担を軽くするかが「鍵」となる。運転者の死角を極力なくすことに焦点を絞った。
また、メーター類からの情報はできるだけ見やすく、優先順位を付けて配置。操作類も視線を動かさずに済むよう手元に近づけ、動きもスムーズになる機構とし、視覚により得られた情報を正確に「認識」できるよう工夫した。
同時に、認識した情報を、瞬時に「判断」し行動に移せるよう「指令」するには、常に身心を正常に保たねばならない。それには「疲れない」車にすることが一番だと考えた。
こうして「アコード3ア」は、「120キロ快適クルーズ」というキャッチフレーズで鮮烈にデビュー。シビックに続く大ヒットとなった。そのデザインは前後のピラーが極端に細く、ベルトラインやボンネットの高さは思いっきり低く、ガラス面積がびっくりするほど大きかった。
大衆車としては始めて「オートエアコン」や「パワーステアリング」という快適機能も装着。「気配を感じる車」をテーマにさまざまな検討を経て、これまでにない新しいスタイルを生み出すことができた。まさしく考えが形になり、それが特徴となる。目標を共有しみんなで力を合わせることで、高いハードルも越えられる、ということを学んだ。

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