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Ⅲ かたちはこころ-本田宗一郎がくれた千字薬-第23話.「○ △ □」

並んでいるシビックのクレーモデルを眺めながら、「基本は、やっぱり四角だな」と本田さんが。シビックは低公害CVCCエンジンを搭載し、派生機種も4ドア・5ドア・バン・ワゴンと拡げ、好調に売れ行きを伸ばしていた。
「世の中には形は三つしかない。○と△と□だよ。丸は円満、三角は革新を連想させるよな。四角は堅実な感じがするだろ。企業の経営もそうなんだが、円満だけでは会社は潰れる。革新だけを追うのも危険だ。やはり基本は堅実、その上で時代の動きを良くみて、円満さや革新を上手に適量混ぜ合わせることが大事なんだ」と。
続けて、「スタイルも同じでね。とくに車のように高い買い物は、その辺を良く考えないといけない。丸や三角に偏ると、最初はいいがすぐに飽きが来る。その点、四角は丈夫で長持ちだよ」と強調された。
そう言われて、あらためて初代シビックを眺めると、基本は台形で四角くて、角は適度に丸められているし、要所はしっかりとエッジが効いている。街を走っている車は、丸い車、三角な車、四角い車と様々だが、○と△と□のひとつだけを主張している車は、目立ちはするが売れてはいない。
先輩からこんな話を聞いた。山で岩が砕けた時は、ほとんどが尖った三角である。それがゴロゴロと谷底へ転がり落ちて四角くなり、さらに谷から川へと転がって多角形になってゆく。そして次第に段々と角がとれて丸く小さく、河口を経て海に流される頃にはさらに小さくなり、海では荒波に揉まれて砂となる。そして、いつの間にか消えてなくなってしまう。 
車も同じで、荒削りの方がインパクトがある。そうは言っても、三角ではきつ過ぎて取っつきにくいし、丸めすぎると引っかかりがなく誰からも振り向いてもらえない。頃合いが難しい。若い連中の荒っぽさだけでも経験者の手だれだけでも駄目、七三か、八二の組み合わせが頃合い。
これまでに成功した車を見てみると、そのほとんどは荒削りな魅力を持つ。が、マイナーモデルチェンジの度に角がとれ、それを二~三回繰り返すと全く主張のない腑抜けたものになり、そのうち世の中から忘れられ消えてしまう。
それは「洗練」を名目に、悪いところを取り除くことのみに執着し、「洗う」ことで隠されてしまっている「本来の良さ」を再び表に引っ張り出し、それを研ぎ上げ「練り」込んでゆくという、「洗練」本来の意味を忘れたからに相違ない。モノづくり屋にとって心すべきことである。

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