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2008年02月29日

Ⅳ CIVICデザイン物語(初代シビック)                  第8話.台形スタイルの安定感

苦労の末、何とか纏まりを見せてきた基本骨格をもとに、初代「ホンダシビック」のデザインは急ピッチで進められた。だんだんと形が見えてきたが、中々みんなには理解してもらえない。チームの苛立ちが、私にも痛いほど感じられた。
私自身、かつての「ホンダN360」の転倒問題が頭の片隅にあり、「台形スタイル」で、見るからに地面に吸い付くような「安定感」のある形ができればいいなと、またそうなればこの車のデザインの特徴が見出せるのではと思っていたのだが…
デザインを進めるに当たっての制約が無い訳ではなかったが、これまでのように、「ああしろ、こうしろ」と、周りからうるさく言われることは少なくなり、逆に「こうしたら格好が良くなる」という助言もなくなっていた。
その代わりに、「団子みたいで格好悪い」などと、陰での「ぶつぶつ」が聞こえてきた。私は悪条件を逆手にとって、自分なりの思い切ったデザインが出来つつあると感じていたのだが、余程この形が気に入られないと見える。
そこでやむをえず、「この車には、いま流行りの流麗さはありません」「この車のイメージは、アラン・ドロンではなくて、チャールス・ブロンソンなんですよ」「白魚の手ではなくて、げんこつの手です」「美しい、じゃなくて可愛いなんですよ」「鉄板が厚そうに見えて、丈夫そうでしょ」などと、あの手この手で売り込んだ。それが功を奏したのかようやく、「そう言われてみれば」と言う声が聞こえるようになってきた。
こうして「台形スタイルの安定感」が、シビックの「スタイリングコンセプト」として周りの認めるところとなる。また本田さんからも、「台形はいいねぇ。うしろから見て格好いいよ」と喜んでもらった。
ご自身は、トランクのついた立派なセダンタイプの車に乗っておられたが、「これからつくる車は、みんな、こうするんだな」と言っていただいた。ホンダ4輪の「デザイントレンド」が認めてもらえたのだ。
考え方がしっかりしていれば人の心を打つ形が生まれる、こうしたことをこのシビックの開発を通じて学んだ。が、考え方が先なのか形が先なのか、まだよく分からなかった。
「機能美」という言葉がある。エンジンや車体の設計の人たちに言わせると、機能を追及し優れた性能を持ったものは、オートバイレーサーやフォーミュラマシンのように自ずと美しくなると。ではデザイナーの役割って何だろう、そんなことを真剣に考えるようになっていた。

2008年02月20日

Ⅳ CIVICデザイン物語(初代シビック)          第7話.5平米

初代「ホンダシビック」は、デザインの方向も絞られチームの結束もますます深くなってきていた。そんな頃、軽自動車と小型自動車の間に「5平米」という新しい規格が出来るのではとの噂が浮上。
車の占有面積5平方メートル以内とするもので、自動車による公害が問題になりつつある中、渋滞や駐車などの問題を解決するために考え出された法案である。
この法案は最終的には実施されなかった。が、「世界車オースチンミニが、あんな小さいサイズで出来ているんだから」として、できるだけサイズを小さくしようとしていた我々のコンセプトにも符合した。
当時の軽自動車の規格は、1300×3000ミリの4平米。シビックはそれに、幅で150ミリ、長さで2~300ミリ足した1450×3200~3300ミリ、このサイズの中におさまれば、楽々5平米に入るとしてスタートした。
ところが全長が決まった後も、毎日のようにエンジンとミッションの長さが伸び、車幅の寸法にもかなりの影響を及ぼし始める。車幅が1450ミリを超えてしまった時は「ぎょっ」とした。歯止めが利かなくなると大変。
それでも「何とか1500ミリ以下に」と申し合わせて頑張ったが、最後の土壇場で「ひょいっ」と1500ミリをはみ出してしまい、さすがにみんな青くなった。5ミリの寸法が何ともならなかったのだ。
結果、必然的にトレッドも広がりタイヤの幅も少しずつ太くなった。勿論その影響を受けて車幅も広がってくる。この犠牲になったのが全長で、何しろ「5平米」の中に収めるのが目標だから、幅が5ミリ増えると全長を10ミリ縮めなければならない。
ハイデラックス(基本タイプ)のバンパーがペチャンコになったのはそのせいだ。そんな頃たまたま本田さんが見えて、「トレッドをあんまり広げると、ドブヘ落っこちるぞ」と笑って行かれた。実際に落ちた人がいたから面白い。
1450ミリから出発した車幅は、最終的には1505ミリに。全長や居住空間の基本寸法が決められ、続いてこのようにして、車幅やトレッドが広く、ホイールベースが長く、オーバーハング(前輪よりも前に、または後輪よりも後ろに伸びた車体部分)が極端に短い、四隅タイヤのディメンションができ上がったのである。
車のデザインは、スケッチから始めるものだと思っていた。が、このように、ディメンションで雁字搦めになってからでは、思うようなデザインができるのかとの不安がつのった。

2008年02月14日

Ⅳ CIVICデザイン物語(初代シビック)           第6話.知恵くらべ

初代「ホンダシビック」の車体の大きさは、5平米という占有面積を一つの歯止めとした。このことは、上方志向にある若いチームメンバーにとって多少の抵抗は感じたものの、レースマシンをつくるような快感があった。確かにレースマシンづくりにも、排気量やサイズなど厳しい規制のもとでの知恵くらべがある。
検討の末に生まれた基本骨格のもと、居住性確認モデルができ上がった。寸法的に決して大きくはないのに、座った人には室内の広い車だという印象を与えることができた。この「広さ感」は、とことんまで詰めたアイポイント(運転者の目の位置)設定の工夫にある。フロントガラスはあまり寝かさず、Aピラー(フロントガラスを支える柱)も少し前に出した。  
横置きFFの特徴で、トーボード(エンジンルームと室内の隔壁)は前方に出せるが、ホイールハウス(車輪の泥除け)は室内に出っ張ったままになる。だから、ペダル類はどうしても車体の中央方向に寄せざるを得なくなり、とは言え足を斜めにしてペダルは踏めないので、運転席は幾分真ん中に寄る。
が、この結果、目の位置がフロントガラスやAピラーから遠くなり、これが幸いして、誰もがびっくりするほど良い開放感が得られたのである。また発表後に、前席左右は「鬱陶しくなく離れすぎない絶妙な距離」と評されたが、こうした前席二人の距離感の良さは、FFレイアウトを生かし切ったシビックならではのことであった。
シビックはもともと「小さな車」として企画された。大きなクルマ並の好条件など望むべくもない。逃れることの出来ない悪条件を嘆いても始まらないとして、それを逆手に、少しでも良い方向にもって行こうと「知恵」を絞った。寸法的にはどうにもならなくとも、寸法以上に広く「感じてもらえれば、」と。
手品師がお客を「騙して」喜ばせるのと似ている。ドアのライニング(内張り)の面積を減らして鉄板面をむき出しにしたことや、前席シートを一寸低く目に設定したことなど、様々な知恵が微妙に影響し合って「こんな小さな車なのに!」と、誰もが驚く室内の広さ感を生んだ。
シビックの開発は、人、物、金、すべてが「ないないづくし」であった。だから、チームメンバー一人ひとりが「やむにやまれず」知恵を出し、こうしたことの積み重ねが、人がやらない「新たな領域の創造」に繋がったのであろう。私は、ないないづくしこそ、知恵を探り出す「魔法の杖」だと思っている。

2008年02月07日

Ⅳ CIVICデザイン物語(初代シビック)          第5話.ユーティリティ・ミニマム

初代「ホンダシビック」のコンセプト(商品の性格や特徴)を固めながら、同時に、クルマとしての基本骨格(大きさや体つき)の検討に入っていた。軽乗用車・初代「ホンダライフ」のレイアウト図を前に、開発チームの主だったメンバーが集まった。
これから本格的な開発に入るにあたり、居住性レイアウトの担当者から、その基本構想の説明を受ける。先のライフの開発によって、FF(前輪駆動)の利点を生かし、どのようにすれば小さい車の居住性を劇的に良くできるかという、居住空間づくりのノウハウが確立されていた。
そこで、そのノウハウをもとにシビックのレイアウト検討を進め、まず居住性要件を、前席はアメリカ人の90パーセンタイル(身長185センチ位)、後席は50パーセンタイル(170センチ位)がゆったり座れる室内空間と定めたという。
そして、排気量が3倍位の車にするために必要な重量増加や性能向上を考慮し、ライフの居住性レイアウトをベースに、まず軽乗用車が標準としている10インチタイヤを12インチにサイズアップすることにした。
次に、前輪後端と後輪前端の間隔がライフのそれと同等となるように、ホイールベース(前後の車軸間寸法)を2インチ(約50ミリ)伸ばし、それを仮設定とする。その上で、この長さに後席足元のゆとりとして必要最低限の寸法を加算し、シビックのホイールベースを定めた。
このように車体サイズは、ぎりぎりに詰め切った寸法となる。12インチタイヤというのは決して大きいものではない。それにも拘らず、「タイヤがでかい」との評判を得たのはこんなところに秘密がある。確かに、シビックの12インチタイヤは、一回り大きいタイヤに見紛うほどに大きく見えた。
横置きFF車のトレッド(左右タイヤの間隔)は、横置きのエンジンとそれに接続したミッション(変速装置)の長さによってほぼ決まってきた。車の長さへの規制や制限は特になかったが、「車幅」については、標準的な車庫のスペース要件があるとか、また多摩地区のように1450ミリ以上は入れない場所があるなどで、とりあえず1450ミリを車幅寸法の出発点とする。
この寸法は、我々が室内幅とドアの厚みの検討から得た車幅寸法と奇しくも一致していた。全長と車幅、それにホイールベースが決まった。このようしてでき上がった基本骨格をもとに、居住空間は、「ユーティリティ・ミニマム」というコンセプトに繋がっていく。


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