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Ⅳ CIVICデザイン物語(初代シビック)          第17話.おんもらデザイン

本田さんがデザイン室に現れ、「この形は『おんもら』していていいね。」と。ほぼ仕上がってきた初代「ホンダシビック」のクレー(粘土)モデルを見ながらの話である。私には「おんもら」という言葉の意味がよく解からなかったが、誉めてもらったに違いないようだ。
形には、「盛ってつくるもの」と「彫ってつくるもの」がある。「盛る」方は粘土でつくった「原型」から雌型を取り、そこに青銅を流し込んで雄の「形(ブロンズ像)」をつくる。「彫る」方はギリシャ彫刻のように「たがね」や「のみ」、それにハンマーを使って大理石から直接「形」を彫り上げるやり方。日本でも、盛ってつくる漆像、彫ってつくる木像がある。
鋳造法やプレス法が発達し大量生産の世の中になった現在でも、その原型となるマスターモデルは「一品生産」。盛る、彫る、の二つの方法を組み合わせてつくられる。我々のつくるフルサイズのクレーモデルも一品生産だが、いずれに属するのだろうか。
この頃ホンダのデザイン室では、彫刻家用の「桂」という緑がかったダークグレーの粘土を使っていた。この粘土は常温で適度な軟らかさが保てるので、機械や道具を使わず、大まかなところは「手のひら」で細かいところや仕上げ段階では「親指」で盛り付けてゆく。どちらかというと盛る方法と言える。
一般的な車のモデルづくりは赤茶色をした「インダストリアルクレー」を使う。このクレーには蝋(ろう)が沢山混ぜてあるから、常温では固く指で形をつくることは出来ない。オーブンで暖めて柔らかくし大体の形に予め荒く盛り付け、冷えて固まったところで道具を使って削り出す。だから、こちらは粘土細工ではあってもむしろ彫るに近い。
双方のやり方は、でき上がる形に自ずとその特徴が表れる。粘土を盛る方は、手の平や指の形のもつ軟らかさや動きに大いに関わり、人間の身体に近いカーブや面が自然に出来るようだ。それに対して粘土を彫る方は、道具をうまく使えば、人間が頭で考えるどんな形状でも人工的につくることが可能である。私は、前者からは「暖か味」を、後者からは「冷たさ」を感じていた。
バイクのデザインをするのに先輩たちが、いろいろと試行錯誤のすえ選んだ粘土の種類とそのつくり方のお陰で、「シビック」の暖か味のあるデザインが出来たのだと思うと、大変有り難いことである。「おんもら」を私は、「暖かみ」とか「柔らかさ」という風に捉えるようになっていた。

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