様々な制度や方法論が行き詰っている。やみくもに前に進んでいればそれなりにつじつまが合う時代は過ぎ去った。
時代は「編集」を求めている。
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2008年11月24日

Ⅳ CIVICデザイン物語(5代目シビック)         第47話.サンバ

機種開発評価会のさなか、「社長から電話です」と。「お急ぎのようですか」と聞くと、「成田空港への車中からとのことです」とのこと。中座して電話に。本田技研社長は北米ディーラー大会で、4代目「ホンダアコード」のお披露目をするため出かけるところらしい。
「何事ですか」とお尋ねすると、「次のシビック(5代目)はどうなってる?」と。「やっと、4代目アコードの量産に漕ぎ着けたところですから」と、答えにならない返事。「こんどは、キープコンセプトじゃ、とてもやって行けないぞ」と厳しい口調。
革新的な3代目シビックのあと、4代目は世界中で評価は高かったものの、キープコンセプトの感は否めなかった。今回の4代目アコードも、日本のジャーナリストからは、通称「RD」と呼ばれている3代目にくらべ保守的と指摘されている。
景気も先行きが怪しくなり競争も熾烈を極める中、社長もイライラがつのっているようだ。「じゃあ、成田に着いたから」とのことで、こちらもホッとして「分かりました。お帰りになるまでには、なんとか」とつい答えてしまった。「それでは頼みます」と電話は切れる。「また言わされてしまった」と思ったがあとの祭り。
私はこれまで、4代にわたってシビックの開発に関わってきた。もういい加減種切れである。そこで若い連中に集まってもらい、社長の電話をかい摘んで伝えた。「僕はもう『種なしかぼちゃ』だから」と兜を脱いで、「みんなで考えてよ」とお願いする。
しばらく心配しながら待っていたら、「ワイガヤをやりたいので」と、最近新しく六本木に出来たホテルに呼ばれた。若い連中はすでに、何日間もそこに篭って絵を描いていたらしい。その割には、車の絵が一枚も見当たらないので不思議に思っていると、「まず、このビデオを見て下さい」と。派手な音楽とともに画面が現れた。リオのカーニバルである。
「どうしたのこれ」と、さすがに度肝を抜かれて訊ねてみたら、「今回のシビック(5代目」は、これで行きたいんです」と言う。「これって、何なんだよ」と聞くと、若いデザイナーは涼しい顔で「サンバです」と。そして、こんな説明をしてくれた。「これまでのシビックは理詰めでつくられてきた。これからの世の中は行き詰まって暗くなるはず。だから、理屈抜きでパーッと明るくやるべき」と言う。「そうは言ってもねえ」と心配げな私。「お気持ちは解りますが」と、一枚の絵を持ち出してきた。

2008年11月19日

Ⅳ CIVICデザイン物語(4代目シビック)                  第46話.「デザインは性能なり」

4代目「ホンダシビック」のデザインをしている時、派生機種の一つ2代目「CRX」のクレーモデルを眺めながら、「このクルマは性能がいいだろう」と本田さんが。「そのように頑張っています」と答えると、「そうだよね、格好のいいのは、性能がいいんだよ」と続けられた。
格好のいいのは性能が良く、性能がいいものは技術が良い。技術の良いものはそれをつくった人が良く、人が良いのはその人の考え方、すなわち心が良いからで、「格好がいい」とはそう言うことなのだと。以来私は、「デザイン」とは「商品」そのもの、「企業の顔」だと考えるようになった。
「顔に出る」という言い方がある。体の調子が悪い時や心に悩みのある時、すぐ顔にでる。が、心身共に健康で、夢に向かって情熱をもって挑戦し続ける人の顔は、ほれぼれするほど色艶が良く輝いている。「自分の顔に責任を持て」とも言われるように、ある年令になると、何のために生きているか社会での存在意義や他人との違いを求められる。
今風に言えば「アイディンティティ」、顔付きからそれらを感じ取ることができると、「いい顔してるね」となる。知識や技術を高めることは大切だが、中には自惚れる人もいて、自分のことしか考えない「我利我利亡者」になる。こうなると恐がって誰も寄りつかなくなり、ついに「貧相な顔」になってしまう。
人は、実力や自信がつくほどに他人を思い、世のため人のため心を配ることが肝要。こうした人の顔は見ているだけで気持ち良く、心が安らぎ、ずっとそばにいて欲しいと思う。まさしく「徳のある顔」である。
デザインも同じこと、日々の精進なくしてはあり得ない。つけ焼き刃の厚化粧や派手な着飾りでは、すぐお里が知れるしメッキが剥げてしまう。個人や企業、地域や国、身体の大きさは違っても「顔」は大切である。
企業でも「いい顔」をつくるには、まず企業が心身共に元気であること。そして、従業員の資質、技術力、生産力、販売力、管理能力、経営陣の決断力などを総合力で「商品」に顕現し、それを通じて「企業の考え」を表明して行く。「デザインは企業のメッセージ」と言われるのはこのためだ。そう考えると、企業では従業員はみなデザイナーであり、経営者はさしずめチーフデザイナーと言うことになる。
しばらく経って2代目「CRX」が発売された。その時つくられたキャッチコピーが、「デザインは性能だ」であったのはまことに印象深い。

2008年11月11日

Ⅳ CIVICデザイン物語(3代目シビック)            第45話.バッテリー

ホンダらしいスポーティイメージをもつ若者向けの3ドアを、何とか実現して欲しいという米国研究所の要望に対し、どのようにすれば期待通りの価格帯で応えられるのか、日米研究所のデザイナーやエンジニアが集まり知恵を絞った。
検討の結果、先進技術が入り、かつコスト的に見合った最新の3代目「ホンダシビック4ドア」のプラットホーム(エンジン、足回り、フロアによる基本の土台)を使って、3ドアタイプの「ヤング・アコード」をつくろうということになる。エンジンはシビックの1500ccエンジンをロングストローク化して1600ccに。
ここでの課題は、いかにして車格感を上げるかである。初代シビック4ドアをベースに、初代アコード3ドアをつくった時の経験が生かされたのは言うまでもない。外観デザインはDさんの絵をもとに、リトラクタブルヘッドライト(格納式)や、フラッシュサーフェイス(凸凹のない表面処理)を考えたフルドア(ドアとサッシュが一体型)などの新しい試みを採り入れ、力強さと端正さを加えることに。
内装のデザインは、ドライバーを中心に考えたスポーティーなデザインにすることを申し合わせた。「善は急げ」で、クレー(粘土)モデル製作は日本でということに決める。この頃から、青い目の仲間が日本のデザイン室で動きまわる姿を見るようになった。
こうして生まれた企画は、その後の検討で、日本で売られているベルノ店用の「ホンダクイント」のモデルチェンジも兼ね、バリエーションとして5ドアタイプが加わる。発売に当たって、このヤング・アコードは「インテグラ」と名付けられた。そしてやがては3ドアと5ドアが揃って、新しくアメリカで発足した「ACURAチャンネル」の立役者となる。ことに3ドアは、アメリカの高校生の憧れの車となった。シビック4ドアが大化けをした。
あいかわらず、アメリカのマウンドから日本のホームベースに向かって、次から次へと豪速球が投げられてくる。うまく受け取っては投げ返す。さながら、野球のピッチャーとキャッチャーというところ。いわば、「バッテリー」のようなOさんと私との関係が、この後10年以上続くのである。監督(専務)も、いいコンビを組ませたものだ。
「インテグラ」の名は、「INTEGURAL」から来ている。完全、統合、積分、などの意味をもつ良い命名だと思う。この後のボールの投げ合いで、3代目アコード2ドアクーペ、続いて、4代目アコードワゴンが生まれた。

2008年11月05日

Ⅳ CIVICデザイン物語(3代目シビック)               第44話.ヤング・アコード

3代目「ホンダシビックシリーズ」のデザインが、そろそろ仕上がろうという頃、「アメリカの研究所から電話があってね」と本田技研専務から。すぐに、Oさんからだと思った。彼は、初代シビックの開発でインテリアデザインの責任者だったチームメイト。「また大変なことになるかな」との予感がした。
これまで彼から電話があると、必ずと言っていいくらい大仕事となる。何度かこうことを重ねながら、初代のシビックやアコードはアメリカの市場で育ってきた。それだけ彼の情報が的確で、その直感力の凄さは、今や誰もが認めるところである。
HAM(オハイオ工場)で4輪生産が開始されたばかりということもあり、経営陣はアメリカでの販売状況に敏感になっている。ことに、HAMで生産されているアコードセダンの市場評価には神経をとがらせていた。「『ヤング・アコード』をつくってくれと言うんだよ」と専務。
てっきり、HAMのアコードに何か重大な問題がと思っていたから、ちょっと拍子が抜けて、「何ですか、そのヤング・アコードというのは?」と思わず聞いてしまった。「ちょっと日本に呼んで、直接話を聞いてみることにするか」と言うことになり、間もなくOさんは、若いアメリカ人デザイナーDさんを連れてやってきた。
何枚かのスケッチを見せながら彼が言うには、2代目アコードは4ドアを主体につくったので、室内は大きくなり排気量がアップして走りも快適に。その4ドアをベースにつくられた3ドアはつられて値段が上がり、若い連中には手の届かない車になってしまった。
このままだと、ホンダを支えている若いユーザーが逃げてしまうし、そうなれば、ホンダらしさの「スポーティイメージ」まで早晩なくなってしまうと言うのである。「その役目は、シビック3ドアでは駄目なのかい?」と専務。「シビックでは、どうしても実用車の域を出られません」とOさん。それにしても、若いアメリカ人のデザイナーDさんの描くヤング・アコードは、何とも言えないセクシーな雰囲気を醸し出していた。
やり取りが続く。「いくらぐらいの車ならいいの?」「1万ドルを切らないと」「アコードをいくらはぎ取っても、そんな値段では売れないね」「今度(3代目)シビックは、アメリカではいくらで売るつもり?」「7000ドルくらいになるでしょうか」「じゃあ、シビックをベースにつくるしかないじゃないか」と、いつの間にかつくる話になっていた。


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