Ⅴ ACCORDとその仲間たち(初代アコード) 第8話.椅子文化
本田さんが絵を描こうと、発売したばかりの初代「ホンダアコード)3ドアハッチバックで、自らハンドルを握り信州の蓼科高原まで行かれたのだそうだ。部分開通の中央高速を駆って3~4時間、ぶっ通しで運転されたという。
途中、尻のおさまりが悪いことが気になりだし、お尻の位置をあちこちと変えても、どうにもおさまらず、シートのポジションだろうかと前後に位置を探ってみても、シートバックの角度を変えてみても、一向に自分の気に入るポジションが見つからない。
目的地に着く頃にはすっかり疲れ切って、絵を描く気にもならなかったという。「車を放って、帰ってこようかと思ったくらいだ」と、思い出してはますます声が大きくなる。相当、頭にこられたようだ。
何はともあれ、本田さんの車に特別な問題が起こっていないかどうかを確認ることが先決と、シートのスペシャリストとともに当の車を借りにいく。座ってみて、シビックで通勤している私などには羨ましいくらい快適なシートに思えた。
最新の測定器まで動員したが、量産のものと取り立てて違いは発見できない。要するに我々は、何処に問題があるのかも分からないくらい、シートに関して云々できる知識を持ち合わせていなかった。
何しろアコードのシートは、初代「ホンダシビック」のものをベースに、見栄えやクッション性の向上を目指して開発された。具体的手法は、腿あたりを良くするため、シートクッション前端に、側面から見て魚の口のような構造のバネを内蔵し、たわみやすく戻りやすい性能を付加したものである。
そのシビックはというと、軽乗用車「ホンダライフ」の発展型で、Sバネと言われた波状のスプリングを横に渡した上に、成型したウレタンフォームを敷くタイプ。これももとをただせば、「ホンダN-360」の板ゴムタイプをスプリング型に改良しただけである。
本田さんはこれまで、世界のありとあらゆる高級車を乗り回してこられた方。比較されてはたまらない、との気持ちが無くはなかったが、言い訳はしたくない。シートのスペシャリストと一計を案じ、本田さんが走った道を自分達も走ってみようということになった。
走行テストの連中にも加わってもらい、ベンツや日本の自称高級車も一緒に連ねて蓼科に向かう。高級車で別荘地などと言うと「すっかりお金持ちの気分になって」と思われそうだが、運転中はずっと、本田さんに睨まれているようで、浮かれた気分には到底なれなかった。






