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2009年03月25日

Ⅴ ACCORDとその仲間たち(2代目プレリュード)               第12話.「矛盾」との戦い

FF(前輪駆動)レイアウトで100ミリ低いボンネットが実現すると、「スーパーカーのシルエットとアコードの実用性」が同時に手に入る。こんなうまい話はない。が、相容れない二つのものを一つにする、まさしくこれは、「矛盾」との戦いとも言えた。
「すぐに、チームの連中を呼べ」と言うことになる。みんなが集まったところで研究所社長は、まずエンジン屋に向かって、「おい、エンジン高さを100ミリ下げないと、会社潰れるってさ」といきなり。
もちろん、エンジンの担当は吃驚仰天。が、一見無茶とも言える投げかけに、さすが歴代の社長を輩出しているエンジン屋、「解りました」と言って仕事場に戻った。
そのとき集められたエンジン以外の艤装、ボディー、足まわりの設計担当は、誰一人、そんなことが出来るはずがないと思っていた。が、数日経って、エンジン設計担当者から、なんと、100ミリ下げることが出来たと聞かされた。
説明を聞いて、少々乱暴なやり口だとは思ったが、とにかくエンジンは下げられそうだ。エンジン以外の連中にとって、他人事のように思っていたことが、急に自分たちの身に降りかかってきたのだ。
ボンネットを低くすると、エンジンだけでなくサスペンションが飛び出し、その上、エアコンなどの装置の置き場が無くなってしまう。さらに、インストルメントパネルも下にさがって、足の入れ場が無くなる。みんな青くなって持ち場に帰って行った。
この日から、デザイナーとエンジニアとの激しいやりとりが始まる。こうした中から、これまでにない全く新しい発想がいくつも生まれ、ついにボンネットを、目標の100ミリ近くまで下げることができた。
エンジンを後ろに傾けたり、吸気系に新しいレイアウトを取り入れたり、超小型のエアコンを新規に開発したりと。また、F-1に使っていた特殊なダブルウィッシュボーンサスペンションを採用するなど、いずれも、この頃このクラスでは考えられない思い切った方法であった。
「無理を通せば道理が引っ込む」という喩えがある。が、どうしてもやりたいことがあれば、今まで営々と積み重ねてきた理論も一瞬にして壊れる。理論とはそんなものだ。今回の教訓である。
本田さんは、科学技術を信じる合理的で現実的な人であった。それでいて「やってみもせんで、何が分かる」と、出来そうにもないことを率先してやる人。しかもつねに夢に向かって、矛盾や不可能命題と闘っていた。

2009年03月20日

Ⅴ ACCORDとその仲間たち(2代目プレリュード)              第11話.やってみれば

2代目「ホンダプレリュード」のデザインを進めているところへ、ふいに研究所社長が現れる。初代は、期待に反して国内市場の評価は低く、今回こそはとの思いはあるものの、特徴のあるデザインがつくり出せず悶々としていた。
こういう時は、むやみに手を動かすよりは頭の中を整理した方がよいと思い、初代は何故うまく行かなかったのか、お客さんはホンダに何を期待しているのか、などと考えているところであった。
分ってきたことは、当たり前のことだがお客さんは欲張りで、「スポーツカーの格好良さと乗用車の実用性を手頃な値段で」と言うことだった。また「ホンダらしくない」との酷評に対してまずやるべきは、もう一度しっかりホンダの「スポーツイメージ」を再構築することだと考えていた。
モデルがあまり進んでいないこともあって、社長にはそんな言い訳がましい状況報告をした。「ふん、ふん」と聞きいていた社長からは、「ところで、スポーツカーはなぜ格好がいいんだい」と投げ返される。私は社長の問いに対し以下のように答えた。
今は、ミッドシップ・レイアウトのスーパーカー全盛時代。スーパーカーは誰が見ても分かり易い「スポーツイメージ」を持っている。そのスタイルは重心を下げるためと空気抵抗を減らすための低いシルエットが特長。
そのために、走ることを一番の目的としているスポーツカーは、エンジンを前後車輪の中間に置く。故に、後ろの席が極端に狭いか、後席なしの2人乗りになってしまう。
反面、ボンネットの中にはエンジンがないので、その高さを極端に低くできる利点がある。したがって格好がいいんだ云々、などと。F-1の責任者をされた方に「釈迦に説法」とはこのことである。
「じゃ、何故そのようなシルエットにしないんだい」と再度切り返された。「すぐ、量産車に使えるミッドシップの技術はありません。たとえあったとしても、二人しか乗れない上に、高くて買えない車になってしまいます」と言い訳を重ねた。
「そんなことじゃ前には進まない、その格好いいと言うシルエットやらを、一度この上に描いて見ろよ」と言うことになる。自分なりに格好いいと思えるシルエットの線を、初代プレリュードの図面の上に重ねて描いてみた。
なんと、初代のボンネットより100ミリも低いところに線が引かれたのである。「エンジンがここまで下がれば良いのか、じゃ、やってみればいいじゃないか。」と、簡単に言われてしまった。

2009年03月11日

Ⅴ ACCORDとその仲間たち(2代目プレリュード)           第10話.差し戻し

「これじゃ、期待するインパクトがない」と、決済者である本田技研社長の一言で評価会は差し戻しになった。2代目「ホンダプレリュード」の企画評価会も5回目を数える。「今度は大丈夫」と勢い込んで臨んだが、ものの見事に落っこちてしまった。
初代プレリュードは、国内での、ベルノ系列店を立ち上げるための中心機種として期待されたが、市場からはあまり良い評価を得られなかった。自動車評論家から「川越ベンツ」と冷やかされ、お客さんからは「ホンダらしくない」と言われていた。今回のモデルチェンジに対する期待は高い。
世の中はと言えば、まさにスーパーカー時代。そして、テレビでは毎日のように、「ハッとしてグー」と、刺激的なコマーシャルが流れている。一瞬にして価値の分かる商品が期待されていた。そんな中で、2代目プレリュードの企画作業が研究所が一丸となって進められた。
今回のモデルチェンジに課せられた役割は、初代プレリュードを中心に据えて設立したベルノ系列店の建て直しと、ここのところ言われている「ホンダらしさ」の再構築である。この二つを達成するには、相当インパクトのある企画が期待されるのは当然であった。
そこでチームが最初に考えたのが、「強力な心臓」の必要性である。が、厳しい排ガス規制にはいち早く対応したとは言え、初代プレリュードのCVCCエンジンは、残念ながら、どうみてもスポーツイメージを打ち出すに相応しいものではなかった。
という訳で、2代目のエンジンをどうするかが、この企画の重要課題となっていて、裏では密かに、新しいエンジンの検討も複数案進めていると聞いていた。そんな中、ここはひとつデザインで頑張るしかないと、選りすぐりの若手デザイナーを数名、HRAに送り込むことになる。
カリフォルニアのまぶしい太陽のもと、新しいデザインイメージが出てくればとの期待からだ。アメリカでの初代プレリュードの評価は日本市場とは違って、シビック、アコードの成功に続くホンダからのニューカマー(新型車)として、若いセクレタリーの心を捉え、新しい市場を開拓しつつあった。
若手デザイナーの持ち帰ったスケッチにも、その辺が色濃く出ていた。アメリカ勢が大喜びしたというそのデザインは、初代をより優雅に洗練させたもので、早速、モデル作業とともにエンジンの改良も詰められてゆく。そのスケッチと改良エンジンで、果たしてインパクトのある商品が出来るのだろうか。

2009年03月08日

Ⅴ ACCORDとその仲間たち(初代アコード)          第9話.色々1018

ロスアンゼルスにあるHRA(ホンダリサーチオブアメリカ)で、アメホン(アメリカンホンダ)のセールスの人たちと開発チームが、「ホンダアコード」4ドアセダンの内外装カラーラインアップを決めるために議論が伯仲していた。
日本やヨーロッパと違ってアメリカは、徹底してカラー・ラインナップをシンプルにする。それだけに、1つの色を決めるのにも真剣だ。先の3 ドアハッチバックに比べ4 ドアセダンが売りにくいと踏んでいる。
理由の一つに、アメホンはシビックやアコードの3 ドアで、スポーティなイメージづくりに成功している。もう一つには、アメリカは圧倒的な4ドア市場であり、しかもビッグ3(GM、フォード、クライスラー)の寡占市場である。
アメリカ人の好みに合わせたい気持ちと、ビッグ3の中に埋もれたくはない気持ちが交錯し、中々結論を出せずにいた。突っ込んだやり取りの中で、どうやら、アメリカ人が好む典型的な色があるということが分かってきた。
たとえば、日本人が青(茄子紺)や白(きなり)を好むように、アメリカ人にとってのそれは、緑や茶になるのだと言う。森や土の色から来ているらしい。それともう一つ、内外装や室内のカラーコーディネイトにも新しい発見があった。
理由はよく判らないが、ことのほか同系色のグラデーションを好むようだ。日本人やラテン系の人は、緑と青などの似かよった色や、黄と紫など正反対の補色という思い切った組み合わせを好む。これらの組み合わせは難しいが奥が深い。
アメリカ人は同系色のコーディネイトを好む。叱られるかも知れないが、こちらは易しく無難である。また「マルーン」という濃い赤色は、彼らにとって高級感のシンボルであることも分かった。
結局、これらの苦しいやり取りが、カラー現適(現地適合性)システムをつくったり、現地研究所にカラー検討メンバーを置くことに繋がった。こうした苦労を一つひとつ乗り超えながら、外装色ではメタリックのダークグリーンやダークブラウンが、内装色ではベージュやマルーン、さらにはキャメルなど、日本人にはこれまで、およそ縁遠かった新色が生まれた。
それらを日本の市場に出すことによって、市場に刺激を与え、「ホンダのカラーは進んでいる」との評価を得るようになった。他にも、こうした経験を通じて知ったことは、ドイツ人の「ど派手」、イタリア人の「原色好み」、イギリス人の「色音痴」などなど。「色々」というところか。


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