様々な制度や方法論が行き詰っている。やみくもに前に進んでいればそれなりにつじつまが合う時代は過ぎ去った。
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2009年11月25日

Ⅴ ACCORDとその仲間たち(初代レジェンド)                      第5話.「スポーティーな2ドアクーペ」

いろんな体験を重ねながら、エグゼクティブカー「ホンダレジェンド」4ドアセダンのデザインは進められた。が、「ホンダのアイデンティティとは?」という課題には、かくありたしという想いはあるものの、具体的な答えを出せないまま時間切れとなる。
「一緒に、アメホン(アメリカンホンダ)へ行ってくれ」と、ローバー社との共同開発で責任者をされている本田技研専務から声をかけられた。開発中の「エグゼクティブカー」をアメホンへ売り込みに、とのことである。
どう見てもこの車が、日本でたくさん売れるとは思えない。成功の鍵はアメリカにあると考えておられるようだ。この頃アメリカでは、初代シビックに続き初代アコードが成功、さらに余勢を駆ってオハイオ工場では、2代目アコード4ドアの現地生産が開始されるまでになっていた。
話はトントンと進むように思われたが、ことのほか難航した。と言うのも、アメホンが本当に欲しがっているのは、シビックやアコードの3ドアハッチバックで築いてきた、スポーティ路線のフラグシップとなる「2ドアクーペ」だということを、現地に着いてはじめて知る。
中々譲ってもらえなかったが、粘りに粘って、「4ドアのあと、引き続いて開発しますから」と言うことにして、4ドアセダンの投入を受け容れてもらった。こうして2ドアクーペは、4ドアセダンをベースにホンダが独自で開発することになる。
思いっきり腕が振るえるぞと胸が躍った。4ドアセダンで果たせなかった想いを、何とか「かたち」に表現しようと思いながら2ドアクーペの開発に立ち向かった。
4ドアセダンのデザインには思い残したことが多い。一つは、いつもローバー社とのコモナリティー(共通性)を気にしながらの開発ということであり、二つには、日本市場の5ナンバー枠(4800mm×1700mm)を常に頭に置きながら、という辛さであった。三つには、もちろん腕が伴っていなかったことで、これは言うに及ばず、である。
私はデザイン室の中で経験も多く、「自分が出来なくては、」との気負いもあった。それに、これが現役デザイナーとして最後の仕事になるだろうとの切迫感も重なり、2ドアクーペでは、何とかホンダ4輪のフラグシップとなるデザインをつくり上げたいと考えた。
が、残念ながらこの開発を通じ、先人のつくった「桂離宮」や「陽明門」の凄さを改めて知り、頂上は遥かであるとの思いが強く残った。

2009年11月18日

Ⅴ ACCORDとその仲間たち(初代レジェンド)     第4話.桂離宮と陽明門

「桂離宮と陽明門、どちらが日本的かね」と、本田技研専務との雑談の中で。ローバー社と共同で「エグゼクティブ・カー」の共同開発に着手したばかりの頃。この手の車は、その会社のアイデンティティを表すものでなければならない。
ホンダは社是の中で、「世界的視野に立ち、云々」と謳っている。が、言うまでもなくホンダは日本の企業であり、しかも極めて日本的な意識に溢れた会社だと、私はかねがね思っていた。雑談はいつの間にか、「日本的」を極めるところに「ホンダのアイデンティティ」をつくり上げるヒントがあるのでは、という方向に。
学生の頃、歴史や美術の授業や修学旅行などで、「桂離宮」や「陽明門」について教わってきたが、20年以上も経って、こんな話になろうとは夢にも思っていなかった。それにしても、「桂離宮」と「陽明門」の姿・形は、全く違っている。
これらが400年ほど前の同じ時期に、同じ日本人がつくったものかと不思議に思えるくらいだ。京都の桂離宮は、日本を代表する建造物のひとつで、書院造りの最高傑作とされている。「簡潔さ」の追及を通じて得られた、木造建築の「美」の証(あかし)と言ってよい。もう一方は、徳川家康が祀られている日光東照宮の陽明門。その「華麗な美」は、桂離宮の「簡潔な美」と対照的である。
前者は、貴族階級の優雅さの追及の結果であり、後者は、武士階級の力の台頭の証明であると言えよう。このどちらもが、日本的洗練の極みであることは間違いない。こう言った両極端の「ものごと」のバランスをとり、各々の存在を調和させてきた結果が、日本の文化なのであろうと私は思う。
やはり、我々は「和を以って尊し」とする民族。「華麗」と「簡潔」のどちらもが「日本的」であると言える。専務は、「要は、正反対のもののバランスを極めると言うことかね、これは大変なことだな」と言って出て行かれた。
「相克」という言葉がある。お互いが勝とうとして争うことだが、相手を打ち消そうとするのではなく、自分の中に取り込んでしまうことで、これが「バランス」の取り方の日本的な方法なのであろう。
「レジェンド」の開発中、桂離宮、陽明門ともに訪ねる機会を得た。不思議なことに双方とも、これまで頭に描いていたものと違った印象を受け、どちらも「清らかな」感じがしたのを覚えている。そして、これらに心を動かしているのは、私同様、庶民的な人たちだったのも興味深かった。

2009年11月13日

Ⅴ ACCORDとその仲間たち(初代レジェンド)            第3話.非理法権天

コベントリーからヒースロー空港に向かう車中でのこと。後席には、ローバー社とのプロジェクト推進責任者である本田技研専務、他には、イギリス人のショファーとその隣に座っている私の三人である。
イギリスでの2週間の滞在は、折衝につぐ折衝でさすがにくたくただった。専務は休んでおられるご様子。私は田園風景をぼんやり眺めているうち、ついうとうと。「駅弁、食べたいなあ」という自分の声で目が覚めた。
「しまった」と思った瞬間うしろから、「まだまだ、駄目だね」と。悔しまぎれも手伝って、「今回のジョイントプロジェクト、本当にやるんですか」と聞いてみた。「当然だ」と強い語気で。
この頃、研究所の若い連中の多くは、海外メーカーと二人三脚でやるより自分達のやりたいことをやるべき、との意見が強かった。欧州現法の口の悪いのにかかると、「ジ・エンド・オブ・ザ・ビギニング・オブ・ホンダ」とまで言われていた。
専務に「どうして、ですか」と聞き返すと、「どうしてもだ」と一喝。それで私も、「いいこと、あるんですか」と返す。もちろん、すでにいろんな検討が進んでいて、こちらも、その辺は十分承知した上で駄々をこねているのである。
しばらくおいて、「あのなぁ、お前さんのような、こんなとこまで来て駅弁を食いたいと言う輩が、英語の一つも覚えられれば、めっけもんだよ」と言われてしまった。専務も困っておられるのだとお察しする。しかし、私はその時、なんといい会社で、いい上司に恵まれ、好きな仕事ができていることかと感謝した。
その後、ヒースロー空港まで専務は無言のままだった。私も、二度とこの件は口に出すまいと心に。日本に帰って数日後、研究所の幹部に集まるよう指令があり、専務から次のような話があった。「非理法権天」という話である。
昔、中国の偉い人が言った言葉だそうで、意味はこうである。「非は理に勝てず、理は法に勝てず、法は権力に勝てない。しかし、いかに権力を手に入れても、天の声には勝てない」と言うことらしい。
勿論この話に至るまでには、理屈ばっかりこねて自分を通そうと反対ばかりしている連中に、何と言ってやれば良いかと、専務としては、よくよく考えられてのことであったのだろう。
話が終わって、「何だか良く分からないな」とぶつぶつ言いながらも、本当は専務の言いたいことをみんなよく分かっていた。その日から誰からも、後ろ向きの発言は出なくなった。

2009年11月03日

Ⅴ ACCORDとその仲間たち(初代レジェンド)                   第2話.「島国根性」と「海賊魂」

こんな事例もあった。ボンネットの高さは、エンジンのレイアウトや運転者の視界の設定のため早くに定めておく必要がある。この車のエンジンは、ホンダのV6とローバー社のL4(直列4気筒)の混載が決まっていた。
ホンダがV6エンジンを低いボンネットに納まるようレイアウトしたのに対し、ローバー社の方は、L4エンジンのヘッド(頭)の位置が50mmほど高い。これをホンダ並に下げて欲しいと要求するのだが、「その必要はない」との一点張り。
こちらがあまりしつこく頼むものだから、彼らも「何故そんなに下げたいのか」と不思議がった。そこで我々の考え方を説明したが、「前方視界のためにボンネットを下げると言うが、それは、何を、どこを見るためなのか」とおよそ噛み合わない。
また、「開放感と言うが、前方の地面が見え過ぎると不安である。むしろ、ボンネットは高い方が安心感がある」と。さらに、「高い方が、外観デザインの見え方に威厳が出る上に安全にも見える」と全く引く気配はない。埒の開かないまま週末を迎えた。
気晴らしに、車でイギリスの田舎道を走ってみようと北へ向かう。グラスゴーの北、ヘレンズボローという小さな町はずれの丘の上に石造りの家を見つけた。立派な英国風の建物で、周囲の風景によくなじんでいた。
同行する英国通の仲間の解説によると、これは「ヒル・ハウス」と呼ばれている建物で、有名な建築家、チャールズ・マッキントッシュのデザインであると言う。石造りだから家の中と外は完全に遮断され、あたかも、厳しい英国の自然環境から住人を守っているようだ。
日本の木造の家は、蒸し暑い夏を快適に過すため開放的で風通しがよい。こうしてみると、木と紙の家に住む人と石造りの家に住む人との間では、物の見方、考え方に、違いがあって当たり前だなと感じてきた。どちらが正しいかではなく、「違っているんだ」と思った途端、すっかり気が楽に。
週明け、ローバー社の連中にそんな話しをしたら、彼らは笑いながら「じゃあ、半分の25mm下げようか」と。敵も中々やるわい。局面は打開されたが、損をしたのか得をしたのか。 その後も、この手の議論が果てしなく続いた。  
東と西の同じような島国が、一方は、ひたすら閉じこもって独特な文化を育て、片方は、大航海時代の覇者として世界を駆け巡った。悔しいがやはり、こちらの「島国根性」とあちらの「海賊魂」とでは、違いも差もあった。


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