様々な制度や方法論が行き詰っている。やみくもに前に進んでいればそれなりにつじつまが合う時代は過ぎ去った。
時代は「編集」を求めている。
メルマガ登録はこちら
▼サイト内検索 (※試作中)

☆■収集(分けると分かる) 収集・選択・分類・流派・系統 H■焦点(ニュースにする) 焦点・報道・統御
A■編定(縮めて伝える) 編定・要約・凝縮・翻訳・結合 I■境界(区切りを変える) 境界・場面
B■原型(型にして見る) 原型・模型・適合・列挙・配置・意匠・装飾・図解 J■周期(リズムをつける) 周期・曲節
C■順番(繋げて較べる) 順番・規則・交換・競合・比較・共鳴 K■諧謔(おおげさにする) 歪曲・不調・輪郭・諧謔
D■暗示(含みを持たせる) 暗示・相似・擬態・象徴 L■形態(構造を見つける) 構造・形態・生態
E■引用(盗んで補う) 比喩・推理・引用・例示・補償 M■劇化(物語で遊ぶ) 筋道・脚本・劇化・遊戯
F■注釈(付け加える) 注釈・付加・削除・拉致・保留・代行 N■綜合(みんなまとめる) 総合・創造
G■模擬(測って調べる) 模擬・測度・強調・変容 △■編集思考素

2010年02月24日

Ⅵ ホンダとともに                      第7話.あわせたてつけ

「ホンダH1300」セダンは、量産立ち上がり段階にあった。開発チームは、トランク後面のガーニッシュ(飾り板)の「あわせ」と「たてつけ」問題に直面していた。この車のリヤ廻りのデザインは、立体感を強調するために、車幅一杯の大型樹脂ガーニッシュの中にテールランプをビルトインした一体型デザインになっている。
そのガーニッシュは、左右のテールランプ部と中央の部分の3つのピースに分かれているが、これを一体にできているかのように見せることにより、この頃、上級車の潮流であった幅広感や高級感を出そうとしていた。が、ボディの溶接行程後の組立段階で、3つのピースをボディの座面に取り付けようとしても、座面の中にうまくおさまってくれない。
そこで3つのガーニッシュと、ボディ外板の取り付け座面の外寸を測ってみた。コンプリートされたガーニッシュの方は、多少大きめではあるが、こちらは規定の公差内におさまっている。が、ボディ側の座面の方は、図面の指定寸法より10mmほど小さくでき上がっていた。
どんな部品でも、図面の寸法通り正確につくることは出来ない。わずかの誤差は必ず生じてしまう。だから「公差」をあらかじめ決めておき、指定の寸法に対して多少の誤差があっても、この範囲内であれば「よし」としている。量産でのボディ溶接治具は外側基準(試作は内側基準)になっているのはそのためなのだ。
「ルーフ」や「フェンダー」を治具に合わせて溶接してゆくと、外側が押さえられているので、それぞれの誤差はボディの内側に向かって蓄積されてゆく。最初のうちは、ボディの各部分、特に開口部分などは、図面よりも少し小さくなりがちである。だから、組立て行程が順調に流れるようになるまでには何回かの修正が必要であり、「ボディ精度を安定させるためには手間がかかる」と言うのが、この頃の共通の認識だった。
関係部所が集まり対策会議が始まる。状況から言って、原因は明らかにボディ側にあったが、何しろ大きなものだし部品の点数も多く、これらの修正には大変な手間と時間がかかる。ガーニッシュ側を修正する方が多少は楽とも言えたが、一時しのぎの対策となり、ボディや溶接精度が上がればまたやり直しとなってしまう。
「あわせたてつけ」と簡単に言うが、たくさんの部品にはその分だけつくった人がいて考え方もある。これらをうまく関係付け最善の方向に束ねていくことが解決の糸口となった。

2010年02月15日

Ⅵ ホンダとともに                      第6話.運転手

深夜、工場の片隅でみんなして頭を抱える中、化成課の名人と言われる主任技師Rさんの発案で、まず巣孔だらけのグリルモールに耐熱パテを塗り、仕上げをした上で焼き付け塗装をする方法を採ることになった。
これで形状は保証される。物が揃ったというのでひとまず胸を間で下ろす。しかし、まだ表面のメッキ処理をどうするかの問題が残っていた。みんなの意見は「試乗会にくる人は初めて見るのだから、シルバーの塗装でもよいではないか」という方向にあった。
私はデザイナーとして、「だからこそ、ちゃんとした物を見てもらいたい」と反論。が、「手だても時間もないではないか」と詰め寄られた。神さまにすがるような気持ちで、モデル用に考案した「木型メッキ」が使えないかと、研究所の材料研究室に問い合わせてみる。
「すぐ、耐熱テストをしてみよう」と言ってくれた。一刻千秋の思いで結果を待つ。しかし、テスト結果は無残にもNG、またもや「万事休す」である。この間も、試乗車はラインを流れ組み立てられていた。
ここ二、三日は不眠不休。ぼんやりと、流れてくる車の正面を眺めていたとき、突然はたっと閃きが。すぐに、取引先のS電機に電話を。私の提案を伝えたら「出来るかも」と言ってくれた。
早速、焼き付け塗装を終えたグリルモールを一台分用意してもらい、新幹線に飛び乗る。小田原で降りて小田急に乗り換え、秦野にあるS電機の工場に着いた時はすっかり夜も更けていた。有難いことに、担当の課長と職人さんだけが残っていてくれた。
誰もいない工場の中の真空蒸着機がお目当て。ヘッドランプの反射板を作るための装置である。その中にグリルモールを入れ待つこと数時間、長かった。間もなく夜が明けようとするころ装置から取り出す。表面はまばゆく輝いている。成功だった。
すぐに鈴鹿へ持って行こうとしたが、新幹線の始発には随分と時間がある。「車で行きましょう」と課長。そして自らハンドルを握り、グリルモールと私を乗せて鈴鹿の工場まで運んでくれる。発表試乗会には、間一髪で間に合った。
この話には事後談がある。30年くらい経って、私が本田技研の役員としてメーカーさんとの懇談会に出席した際、たまたま、S電機のS社長さんとテーブルが一緒になった。
話が弾んで、その当時の苦心談と、九死に一生を得た思い出話を申し上げたところ、なんと、「その時の運転手は、私ですよ」とS社長。思わず、二人で手を握り合った。

2010年02月10日

Ⅵ ホンダとともに                      第5話.万事休す

材料研究室のHさんから、「大至急来てくれ」と悲痛な電話。跳んでいくと、そこには「ホンダH1300」のテスト車が置いてあった。「これを見てくれ」と言う。よく分からいので「何ですか」と聞くと、「もっと、よく見てくれ」とボンネットを指して言う。よくよく見ると、グリーンメタリックのボンネットの中央部が少し黄ばんでいる。
「エンジンの温度が計画値より高いので、あんたの思っているような鮮やかな色では熱で変色してしまう。予め少し彩度を落として色相を黄色の方に振るしかない」と言われた。色づくりでは、これまで何度か失敗している。今度こそはと思っていたが、「分かりました」と引き受けた。量産立ち上がりまで時間がないのは承知している。
私は、「ラジエーターグリルの方は大丈夫ですか」と恐る恐る聞いてみた。樹脂でつくられているからだ。「テスト中だからなんとも言えないが、難しいかも知れない」と心配そうに。予感が的中。それから間もなく、樹脂では無理だとのテスト結果が出た。急遽ラジエーターグリルは、樹脂製からダイキャスト製に変更することになる。当然、樹脂の金型は使えない。
この頃すでに、鈴鹿工場では発表会用の車をつくり始めていた。正式の量産用のダイキャスト型とは別に、暫定の型を併行手配することに決まった。
「77(77馬力仕様)」タイプは、周囲のグリルモールと中の格子が別体になっている。そのため格子のみの対応でなんとかなりそうだったが、「99(99馬力仕様)」タイプは、グリルモールとヘッドランプリムが一体で出来ていて、しかも、モールやリムの表面はメッキ処理になっていた。
暫定とは言え、発表試乗会までに、量産並の出来と試乗に耐えられるものにつくり上げるのは容易ではない。夏の暑い最中、大阪のメーカーに立ち会いに行き、徹夜で鋳込んだものを明け方になって取り出し、出来の良いものを選定。朝一番で鈴鹿工場に持ってゆく。
鋳肌を削り、プレスで打ったフロントマスクに現合(現物合わせ)するまでは何とか漕ぎつけた。しかし、グリル担当のメーカーは細心の注意を払ってつくったのだが、心配していた巣孔が出てしまった。手の打ちようがない。「万事休す」である。
発表会にグリルなしの車を出すわけには行かない。時間もなければ方法も見当たらない。交代制で出勤している担当の研究所員と、工場の技師や課長など管理職数名で頭を抱える。夜中の12時はとっくに過ぎていた。

2010年02月03日

Ⅵ ホンダとともに                      第4話 木型メッキ

やっと4輪担当の一員となり、「L700」というバン(貨客車)の外観デザインチームに入る。この開発機種は、人気のM社ファミリアバンを競合車に見立てた企画で、バンパーのデザインと図面化が、私にとって最初に任された仕事となる。
今回も、クレー(粘土)モデルはつくったものの測定の工程はなく、画張りをもとにした図面作業となった。それでもS600クーペの経験が活き、思った通りの木型モデルが仕上がる。
が、それからが大変で、木型モデルを本物のように見せるため、銀(メッキ)テープを貼る作業が待っていた。伸びないテープをコーナーの3次曲面に貼るには、テープを細く切って根気よく貼り付けていくしかない。
気が遠くなるような作業の連続で、しかも仕上がりは惨めなものだった。こんな作業は二度とやりたくないと、考えた末、木にメッキをすればと閃く。検討の結果、表面に電気が通ればメッキができることが分かった。
その後、ABS(アクリローニトル・ブタジエン・スチレン)樹脂に導電性があることを突き止め、樹脂を塗料のように溶かし木型に吹き付けることにした。
ところがこれが大失敗。液状の樹脂がノズルのところで固まってしまい、塗装の職人さんが大事にしていたスプレーガンを、三つも使いものにならなくしてしまう。それでも諦めず、しぶとく調達の課長さんに電気の通る塗料を探してもらう。
「念ずれば通ずる」で、しばらくして要望に近いものを発見。世の中には似たようなことを考える人がいるもので、名前は忘れたが、新潟のあるメーカーが砂型(鋳物の雌型)をつくる時、マスターになる木型の防湿のために表面にメッキする技術を開発中だと言う。
それは、カーボンと樹脂を一緒にして特殊な方法で液状化したものを木型に吹き付け、その被膜にクロームメッキを施すという方法。今度は固まってしまう心配はなさそうだ。
が、これにも欠点があって、表面が塗装の仕上がりのように滑らかな面にはならない。砂型をつくるのなら問題にならないが、商品モデルだとそうはいかない。吹き付けたあと、ザラザラした表面を細かいペーパーで水研ぎをする作業が加わる。
これが大変な手間がかかる上に手が真っ黒になることから、作業する人には極めて評判が悪かった。が、この方法によって、木型のモデルをまるで金属メッキのバンパーのように仕上げることができた。誰もがびっくりするほどの出来映えとなる。「必要は発明の母」なり。


書名やキーワードで千夜を検索


▼松岡正剛の最新情報はコチラ
▼松岡正剛&編集工学研究所の最新情報をブログでお届け


©編集工学研究所
■ 会社概要
■アクセス
■お問い合わせ