Ⅵ ホンダとともに 第11話.稜線画法
「ちょっと、『ホンダZ』の外形線図作成を手伝ってやってもらえないか。どうも、造型係(金型製作の基準となるマスターモデル製作室)で問題になっているらしい」と、室長からいつになく丁重に頼まれた。何はともあれ、急いで確認に行ってみることに。
丁度、サイドパネル(フロントフェンダーとドアを除いたボディ側面)とドアを一体型にした、エポキシ系樹脂のマスターモデルを削り出しているところであった。「どうも変なんですよ」と、モデル製作担当者が心配顔で言う。デザインを担当している若いM君も、困った顔をして立っていた。
よく見るとそのマスターモデルは、研究所の造形室でいつも見ているZのクレーモデルとはおよそ違う形をしている。「どうしたの?」と聞くと、「外形線図通りつくっているのですが」とモデル製作担当者。何が問題なのだろうかと外形線図を見てみると、サイドパネルのオーガニック(有機的)な形状が「稜線画法」で書かれていた。
稜線画法とは、この頃まだ稚拙であったモデル製作や測定の精度不足を、作図によって補うために用いられた手法。ボディ曲面を構成する2つの面をそれぞれに延長して、それらが交叉するところを仮想の稜線として作図し、そこに角R(アールと呼び、2つの線や麺の交差する所を丸くすること)指定をするという手法である。
この車のリヤフェンダー辺りは、アメリカの大型車に見られるコークボトル的(コーラの瓶のくびれのある形状)な、ネガ(凹)からポジ(凸)へと微妙に変化する面を持っていた。それを稜線画法で書いているのだから、ただでさえ難しい。
「この微妙なネガ部の仮想稜線は、どのようにしてつくったの?」とM君に聞くと、「2つの面がぶつかるのは、およそこの辺かなと見当をつけて線を引いた」と言う。そう言われれば、線図には三面ともちゃんと「線」が入っている。この線の設定が、間違いのもとだというのがすぐに判った。
考えられないような失敗だが、手動式測定器で一点一点測定値を読み取っていくやり方では、細かいピッチの測定は大変である。ついつい作図でやろうということになり、今回の失敗に繋がったのだろう。
事後談がある。この失敗を轍に、苦肉の策として私が考え出した方法だが、クレーモデルにこの仮想線を車体面の「法線」方向に投影し、それを「ハイライト線」と称して予め針金を入れてつくり、その線を測定するという方法で、これがことのほか功を奏した。






