豊かな自己表現力と幅広い教養
平成12年版の経済白書に示唆に富むグラフがでてくる。白書はIT時代に必要な人材として創造力や実行力をあげ、学校教育や企業内訓練の実態を論じている。その中で「職業生活において重要な能力と大学で身につけた能力」について、30代の初めのビジネスマンに聞いている。これによると、「大学で身につけた能力」としてあげられているのは、高いものから順番に、幅広い教養、人文・社会の知識、自然科学の知識となっており、これは私達の学生時代からほとんど不変という印象だ。
一方、「現在とても重要」な能力は、高いものから順番にあげると、コミュニケーション能力、判断力、問題解決・分析能力、プレゼンテーション力、企画力・創造力となっている。これらの能力はまとめて「自己表現力」ということもできると思う。大学教育はこういった分野に人が少ないこともあって、全くといってよいほど対応できていないことがうかがえる。
また「教養」については、「現在とても重要」と考えている人がかなり増え、そして「今後とても重要」になる能力という問いに対しては、コミュニケーション能力と並んでトップに踊り出てくる。仕事に熱が入ってくると最初に感じるのは教養の不足だ。つまり大学においては教養教育も十分であったとはいえないということであり、ビジネスマンはその獲得について現在、そして将来の切実な課題として認識しているということだ。
30代初めというと、ようやく仕事の意味や重みがわかり始めた時期だろう。彼らが実社会に出てキャリアを磨きながらひそかに感じているのは、「豊かな自己表現力」の欠如と「幅広い教養」の不足なのである。
大学を始めとした学校教育の社会の側から見た問題点はここに尽きているように思う。この点はキャリア形成の第一歩としての就職試験に臨んで大学生自身が欠落を感じる能力と酷似しているのは興味深い。
では、「自己表現力」をどうやって獲得すればいいのだろうか。図解も含めた表現する手段の獲得と、表現機会の拡大が重要だ。ポイントは表現しようとすることによって、中身ができてくるということだ。逆ではない。
それでは「教養」はどうか。教養人とは自分の生き方を常に問い続けている人であるという定義がある。その考えに従えば、自分の立っている地平、位置の絶えざる確認が必要だ。歴史、地理、そして物理学や生物学、宇宙論等が必要なのはこのためである。
私が大学で行なっているゼミの一つでは、自分の関心のある分野を題材に毎週1枚の図解を自由に描いてくることを課題とし、各自が図解を発表し、理解を深めるため全員で議論する方式を採用している。図解をつくった本人はその過程で、例えばルワンダ紛争、性同一障害、陪審制、学級崩壊などに関する知識の枠組みが深く頭に入る。そして他の受講生がつくった図解を解説してもらう中で、広い知識を手にすることができる。ごく短い時間で様々の分野の体系化された知識が身につくというわけだ。
完成された図解以上に大事なのは、図解の過程でものごとを自分の頭で深く考え抜いたという経験である。描く過程を多く経て、鑑賞する機会を多く味わうことによって、しだいに自分なりの世界観が形成されてくることを感じるようになってくる。つまり教養の獲得にも図解が有効ということだ。
「豊かな自己表現力」と「幅広い教養」はビジネスマンの必須科目である






