第五夜 Case Of Insanity〜境界線上の魂〜
<夏の葬列>
カーテンの隙間から月の光が差し込み、
冷たい光が部屋を満たしていく。
ボクは部屋の隅で膝を抱えてうずくまっている。
月明かりの中でボクの腕はまるで人形のように見える。
テレビジョンのブラウン管には縞模様だけが映り、
シャーシャーというノイズが哀し気に響いている。
シャツのポケットから、
くしゃくしゃになったたばこを取り出し、火をつける。
薄明かりの中、鏡をのぞきこむ
青白い顔をしたボクがこちらを見つめている。
鏡をたたき割る。
薄笑いを浮かべたボクの顔が無数の欠片になる。
どれが本物のボクなんだろう
いまここにいるボクは本物なのか、ダミーなのか
割れた鏡の中に本物のボクがいるのだろうか
わからなくなってくる
ジージー
窓の外では
真夜中だというのに、街灯の灯に騙されたのだろうか
蝉が鳴いている。
ボクは真夜中に鳴く蝉にはなりたくない。
クーラーの調子が悪いボクの部屋
汗がしたたり落ちる
ボクの細い腕に、静脈が浮き上がる
FMラジオからは軽薄そうな男が
どうでもいいことをしゃべっている
ボクは静かに殺意を育てている
窓の外で、エンジンの音
ママンが出かけるみたいだ
こんな真夜中にどこに行くのだろう
いつものように化粧が濃い
あの人は、気づかれていないつもりだろうけど
知らないのは本人だけで、
パパもお姉ちゃんもみんな気づいている。
ボクの家族はみんな人形のように無表情で
何を考えているのか分からない。
ボクもそう思われているんだろうけど
家族という名の共犯者
何に対して?
窓をヤモリが這い回っている
腕を伸ばしたら、ピートがとまった
飼い始めたばかりのみみずく
僕の腕から血がしたたる
ヤモリを捕まえて空中に放ると
ピートが、そのくちばしで捕まえて振り回す
今はおなかがいっぱいみたいだ
ボクの孤独な昼下がり
静かに発狂していく
腕から流れる血を舐めてみる
ボクの血は赤くてとてもキレイだ。
| *note* BGM Case of insanity/ The Roosters 2年前のフジロックフェスティバルで 奇跡的な復活を果たし一夜限りの再結成&ラストコンサートを行った ルースターズが81年に発表したマキシシングル |
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その後の大江慎也の精神状態を
気が遠くなるほどの長い不在を
予感させる内容の歌。
ルースターズほど、説明が難しいバンドは
この日本にはいない。
初期の頃はめんたいロックと呼ばれていた。
ブルースを基調とするルーズなロックを得意とする、
多くの日本のバンドが、
ストーンズに影響を受けているのとは決定的に異なり
彼らは、たまたまストーンズと同じ音楽を聴き、
同じ方法論で音楽を奏でていたにすぎない。
結果、ストーンズ以上にカッコいい音を鳴らした。
あの頃のバンドには珍しく、
パンクロックからの直截的影響もあまり感じない。
しかし、より先鋭的にあろうとする彼らは
巷のどんなパンクバンドよりも暴力的な音を放つ
極めて現代的なバンドだった
そして『Case of insanity』
「オレはただの精神病患者」と何度も繰り返すこの曲で
ルースターズは大化けした。
この曲以降、日々もろくなっていく大江の精神状態と反比例するかのように、
ルースターズは、メタモルフォーゼを繰り返し、
その音楽性を飛躍的に進化させていく。
ボディドリー直系のブギー、
R&Bやパブロックを高速で演奏するバンドから、
ニューウェイブの香りを漂わせ、
言葉本来の意味でサイケデリックを体現した
数少ないバンドへと変わっていった。
そして数枚の傑作アルバムを発表した後に
大江慎也はルースターズから脱退する
、
オリジナルメンバーでリズム隊の要であった
ベースの井上富雄とドラムの池畑潤二はすでに脱退していた。
ルースターズは精神的支柱を失い、
オリジナルメンバーはギターの花田ただ一人になった。
普通のバンドならば解散しているところだろう。
しかし花田はバンドの存続を決意した。
大江が帰ってくる日までルースターズを守り、
再び大江と音楽をやるためには
ルースターズは続けなければならなかったから。
結局、バンドは活動停止になるけれど
20数年後のフジロックフェスティバルのステージで花田の思いは実現する。
しかし、それはまた別の物語だ。
ルースターズを脱退した大江慎也は
ソロとして数枚のレコード、そしてOnly one s名義で1枚のレコードを
世に出した後に表舞台から姿を消す。
3年前、花田率いるロックンロールジプシーズのライブに飛び入りするまで。
そして2年前の夏、フジのステージに大江は帰ってきた。
ルースターズは一夜限りの復活に終わり、封印されてしまったけれど、
大江はまだ歌い続けている。
今年のフジロックフェスティバルへの出演も決まっている。
ルースターズの中から1枚アルバムを選べといわれれば、
中期ルースターズのφを選ぶだろう
他にもすばらしいアルバムはある。
初期の荒々しい音が好きなら、ファーストかセカンド。
1曲選べと言われれば
たくさん名曲はあるけれど
ルースターズと大江慎也にとってマイルストーンとなった
Case Of Insanity
白昼夢のようにけだるく、不穏当なまでに明るい音をバックに
オレハタダノ精神病患者と歌う、この曲こそが
ボクにとってのルースターズだ。
※境界線
ウチとソトを区切る







